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お知らせ

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どんな楽譜を選びますか?

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楽譜を買いに行くと、ピアノって楽器はすごいなって思います。紀伊国屋のような一般書店でさえ大きな棚一面がピアノの楽譜でいっぱいです。ギターやバンドスコアが置いてあるようなポピュラーなコーナーさえ、ピアノの教則本やらアレンジ、フレーズ集で溢れています。ましては大手楽器店の楽譜売り場クラシックのコーナーなんて、フロア中の棚がピアノの楽譜で占められています。望みの楽譜を探すのも大変で、だから楽譜売り場の書店員さんは、音楽大学を出たような、音楽の専門知識が高い人です。実際。私の同級生もYAMAHAに就職して楽譜売り場に配属された人がいました。
 

最近は通販で楽譜が買えるようになって、書店や楽器店まで足を運ばなくなりました。お目当がわかっていたなら通販の方が「検索」して在庫があるかないかすぐわかります。便利ですね。でも大規模の楽譜売り場に足を運ぶこととはとても大切です。実際に楽譜を手にとって中身を確認しないとわからないことも多いからです。
 

音楽専門の学校に行っているような専門の人のピアノの部屋には、楽譜が溢れることになります。同じ曲でも版違いで幾つか持っているからです。ショパンだけでも「パデレフスキー版」「コルトー版」「エキエル版」など思いつくだけでも幾つか版がででてきます。師事した先生によって指定する版が違ったりするので、その都度買い揃えることになるからです。
 

原典版(可能な限り忠実に作曲家の意図を再現することを目的とした楽譜の版、)といえど出版時には校訂者がいるわけなので、同じウィーン原典版でも、新しい版と古い版では曲数が違っていたり、指使いが変わっていたり、と違いがでてきます。(原典版は輸入楽譜でドイツ語表記の場合でも、表紙にUrtext Editionと書かれているので目印になります。) 

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例えばショパンの場合、「パデレフスキー版」での演奏や録音がされている音源を一般には耳にすることが多いです。「あの名演と同じ曲を弾きたい。」と思った場合、版が違うと、CDで聞いた曲と「音」や「曲の長さ」が違っていて違和感を覚えることがあります。「パデレフスキー版」は長い間決定版のような扱いでしたが、ショパンコンクールでは「エキエル編ナショナル・エディション」が決定版になっています。古い版より最近の研究が反映されてより作曲家の意図を再現できている、ということなのでしょうね。(特にコンクールの場合は、同じエディションに統一しておかないと審査も大変なんだろうと思います。他の楽譜と「音」の違いが多い「パデレフスキー版」は、残念ながらショパンコンクールの決定版ではなくなってしまいました。)
 

でも、ご贔屓のピアニストの演奏を聴いて好きになった曲があるならば、無頓着に楽譜を買って違和感を覚えながら練習することになるより、そのピアニストと同じ版を使った方が良いと思います。
 

誰かに師事しているなら、先生に直接「何版の楽譜を買ったらいいでしょうか?」と聞くのもいいでしょう。楽譜売り場に行くと装丁が洒落ているレアものがあったりします。自分が気に入った楽譜を使うものいいでしょうが、外見だけで選ぶと中身がひどいこともあるのは世の常なので、その覚悟さえあればとりあえず購入してもいいと思います。
 

私もドーバー版の「表紙がルノワールの女の子の肖像」に惹かれて、しかも「激安」なラヴェル全集を買ったら、音の間違いだらけだった覚えがあります。ピアノ仲間もアンティックなショパンのバラード1番の楽譜を見つけて喜んでいましたが、紙質も含め中身はそれなりのようです。
 

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例えば、シューマンだと「ブライトコプフ版」が好きな先生方がいらっしゃいます。なぜだというとシューマン夫人のクララ・シューマン編集版だからです。音大の先生だとラヴェルなら「デュラン社」を指定されるときがあります。やっぱりラヴェルなら「デュラン」とか「オリジナル」とかの文言が楽譜の背表紙などに記されているものが無難なようです。このように、作曲者で出版社を変えて指定する先生もいます。
 

好き嫌いや特別な趣味がなけれは、原典版がいいんじゃないかと思うので、私の場合ですが、とりあえずは「ウィーン原典版」か、「ヘンレ版」たまに「ペータース版」も買うことがあります。(ペータース版が最初に日本に入ってきたのは明治時代だそうで、以来今日もずっと変わらず、黄色に黄緑の装飾の枠のデザインを守っているそうです。)
 

楽譜は必ず校訂されているので、校訂者が誰なのかも学者肌の先生にとっては大切だったりします。とりあえず、レッスンに出所不明のピースの譜面を持っていくことは御法度です。何か楽譜に問題があった時に、先生にいちいち原典版を調べさせたりするのも失礼だし、これから勉強しようとしている自分に対しても粗悪な譜面を使うことは失礼です。‘ベートーヴェンの悲愴の2楽章だけ弾きたい’と思っても、きっと「ベートーヴェンは一曲全部知った上で2楽章を弾いて欲しいだろうな〜」と思って、ちゃんと全楽章の譜面を持つべきだと思います。(確かにヘンレ版は重いですが、持ち歩きにはコピーを持つなど工夫するといいと思います。これも先生次第ですが、中にはコピーを嫌う先生もいらっしゃるので、レッスン前に了解を取った方が無難です。)
 

私は、そんなに厳格ではないのですが、全音版やJ.Sバッハの春秋社版を使うなら、原典版を意識してもらうようにしています。(日本の出版社は確かに日本人には使いやすく勉強しやすくできています。TPOに合わせて上手に使うと、いい参考書代わりにもなります。それと粗悪な楽譜としてブランディングされていた全音出版も方向転換して、最近は良書?が増えました。安価でオススメの場合があります。)
 

ところで、以前こんなことがありました。出先で知り合いからメールを受け取りました。「ショパンの革命のエチュードの左手の○小節目に付点のリズムがあるか調べてくれる?」同行していた友人が呆れて「あるわけないじゃん、試しに何版を使っているか聞いてみて。」と言います。すると「ドレミ出版らしいけど、何かの雑誌の付録についていたピースじゃないか」という答えが返ってきました。その知人はピアノの先生で、その怪しい楽譜を生徒に貸そうとしているらしい。しかもその楽譜しか持ってないそうです。それを聞いた友人は一言「恥ずかしいね。」と言いました。確かに、これから教えるのに怪しい譜面しか持っていない状態はおかしいし、勉強不足を友達に公表することなので、私が同じ状況なら人知れずこっそり調べるだろうなと思いました。
 

何事も、相手が先生だと親切に教えてもらえますが、友人知人くらいだと誰も「知らないと恥ずかしいこと」だと教えてくれません。陰でバカにしているだけです。「たかが楽譜一つ、どれでもいいのに細かいことを言われる。」と思うこともあるかと思いますが、こだわる先生や演奏家にとっては物凄く大切なことなので、たとえ趣味の範囲であったとしても心に留めておくといいと思います。そして、自分自身が「良いな、気に入ったな。」と思う楽譜で勉強しましょう。
 

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